J、AX 5デイズ第二夜 with メリー
▲メリー |
10月4日。時刻は午後7時を数分経過したところ。第二夜のスペシャル・ゲストはメリー。1曲目の「ジャパニーズモダニスト」を披露し終えたところで、普段は墨汁と半紙を伝達の道具とするフロントマンのガラが、いきなり言葉を発した。そのこと自体が彼らの意気込みの強さを象徴していた気がする。
▲メリー |
メリーは音楽的な意味でとても多面的なバンドだが、この夜は攻撃的なチューン(でありながら、常に哀愁味と“歌モノ”としての完成度が伴っているのがこのバンドの特徴でもある)の連射の末に、昨年、5周年を迎えた自分たちに向けて作ったというロッカ・バラード、「コールing」をJに捧げて短い持ち時間を消化した。キレまくっているようで実は真摯。そんな彼らの特性がいいカタチで発揮されていたと思う。オーディエンスのなかには良くも悪くも「ん?」と感じた人も多かったことだろう。が、曲を重ねるごとに拍手と歓声の輪が広がっていった事実は付け加えておきたい。
そしてメリーの5人がステージを去ってからちょうど15分後、暗転した場内に鳴り響いたのは「Commencement」。この曲を序曲に据えた2001年発表のアルバム、『BLOOD MUZIK』が今夜の“お題目”だ。が、そこで「懐かしい!」なんて気分を味わえたのはほんの一瞬だった。いちばん高い飛び込み台の上から、深呼吸する間もなくダイヴするかのようなスリリングさで「Die for you」が炸裂したからだ。当然、そんな高飛び込みなんて経験したことはないんだが。
僕がこの『BLOOD MUZIK』という作品の音に初めて触れたのは、その年の11月30日の夜のことだった。音源制作の最後のプロセスともいうべきマスタリングの現場に立ち合わせてもらい、その後、レコーディングの打ち上げに向かう彼の愛車のなかで“完成直後インタビュー”をしたときのことは今も克明に憶えている。当事者であるJ以上に僕が興奮していたことも、その打ち上げの席で食べた韓国料理がめちゃくちゃ美味かったことも(ちなみにこのインタビューは『GiGS』誌2002年2月号に掲載されている)。
そして12月27日、このアルバムは世に放たれている。その前日にはなんと、大阪と渋谷のTOWER RECORDSでトーク・ライヴが行なわれていたりもする。その際に披露された「アルバム制作期間中に体重が7kgも落ちた」というエピソードには、狭い会場が大きくどよめき、僕自身も唖然とさせられたものだ。「俺もレコーディング・ダイエットでも試してみるか」なんて考えたわけではなく、彼が文字通りこのアルバムのために“身を削った”ことを思い知らされたからだ。
それから6年。『BLOOD MUZIK』の楽曲たちは、やはり『PYROMANIA』のそれと同様に、懐かしさではなくリアリティを感じさせてくれる。しかし、「これからの自分は、どうあるべきか?」という自問自答と試行錯誤を繰り返し、出口のない状況のなかで、自分自身をいたぶるようにしながら理想を見つけようとしていた当時の彼とは、もはや違う。単純に言えば、今のJは、あの頃になりたかった自分、なれるかどうかわからなかった自分に、実際、なれているのだと思う。
「なんか今日、フロアがすごい楽しそうなんだけど。あとで俺も混ぜてくれるか?」
4曲ほどプレイし終えたところで、すでにサウナ状態の場内に向けて、Jは笑顔でそう問いかけた。もちろん、彼が本当にフロアに飛び込んでくることはなかった。が、ステージとフロアの間には温度差も境界線も皆無だった。当時、まさに「Perfect World」を追い求めようとしていた彼は、もはや、パーフェクトな世界など存在しないことを理解したうえで、当時の理想を越える現実を手にしているんじゃないかという気がする。
久しぶりに聴いた『BLOOD MUZIK』の楽曲たちも、現時点での最新作である『URGE』からの「Endlessly, goes on forever」や「Go Charge」、「walk along」も、Jの10年間を語るうえで同じ重みを持つものなのだな、と、僕は改めて感じさせられた。で、それ以前に、どの時代の曲も同じように汗をかかせてくれるのだということを思い知らされた。明日は絶対、着替え持参で来ることにしよう。
増田勇一
メリーからのメッセージ
https://www.barks.jp/watch/?id=1000019996
<J SHIBUYA-AX 5 Days –ALL of URGE-10th Anniversary SPECIAL LIVE>
2007年10月4日(木)
[SET LIST]
-encore-
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